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LastUpdate 2016/04/28

登山の呼吸法

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ただ吸って吐くだけが、こんなに奥深い。

(※注意:このページに書かれたことは管理人が個人的に調べたことであり、内容に保証はできません。特に栄養素の摂取量などは、医師に相談することが望ましいと思います。)

STEP 3酸素がエネルギーを生み出す

3,000m超の高所を登る富士登山では、登頂のハードルとして想定されるもののひとつに高山病があります。

高所では気圧が低下することにより空気の密度が下がり、平地と同じ呼吸をしていては十分な酸素が得られません。そのために富士山では呼吸が大事とされますが、これは富士山に限らず登山全般、いいえ平地でのスポーツにおいても呼吸は重要な要素です。

有酸素運動では、酸素を消費することでエネルギーを生み出します。酸素を体内に取り込む唯一の方法である呼吸は、登山においてもパフォーマンスを維持するためにおろそかに出来ないことであり、ときに結果をも左右します。

我々が普段の生活で『呼吸』を意識することはあまりないですが、富士山への登頂を目指すのであれば、トレーニングの段階から効率の良い呼吸法を理解しておくことは決して無駄なことではありません。

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2回吸って2回吐く理由とは?

スッスーハッハー

ランニングなどのとき、「鼻から2回吸って、口から2回吐く」という呼吸法を聞いたことがあると思います。しかし、その意味について語られるのはあまり聞いたことがありません。普通に考えれば、1回ずつであろうが、2回ずつであろうが、体内に取り込む酸素の量は変わらないと思うでしょう。ですが、ある要因によって明確な違いが生まれていることを説明しましょう。

一般に、安静時の成人男性は1回につき500~600ccの空気を呼吸しているそうです。では、その500ccの空気を100%利用できているかというと、実はそうではありません。これは、息を吸って吐く間に、『死腔(しくう)』が存在するためです。死腔というのは、口から肺に至るまでの気管部分のことで、酸素は肺を通して血液に取り込まれることから、肺にまで届かない死腔量は呼吸に使われない空気の量ということになります。この死腔量は、およそ150ccであるとされています。

1回ずつ呼吸する限りにおいては、この死腔量は常に同じです。しかし、間に呼気(こき=息を吐き出すこと)を挟まずに2回続けて吸うとどうでしょうか?

1回あたり150ccの損失を減らすことが出来る

1回目の吸気に対して150ccが死腔量になるのは同じですが、2回目は死腔を占めていた空気が肺の方へ押し込まれ、1回目の吸気が全て肺に入る一方で死腔量は2回目分の150ccのままです。このことから、仮に1回の吸気量を500ccとして2回呼吸する場合、1回ずつ呼吸すると1,000ccのうち300cc、つまり30%のロスがあるのに対して、2回続けて呼吸すると15%のロスで抑えることが出来ます。

わずか15%の差と思わないでください。安静時でさえ人は1分間に12回の呼吸を行っていますから、1分ごとに900ccもの差が呼吸方法の違いによって生じ続けるということです。さらに、激しい運動を行うと呼吸回数も増え、1分間に30回以上にもなりますから余分なロスを半分に減らすと、なんと毎分2,250ccもの空気をより多く取り込めることになります。

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呼吸のリズム

呼吸の基本は体の動きにリズムを合わせること


リズムが大事
(image from 写真素材 足成)

上記の説明で、「ハァハァ」と激しく浅い呼吸を多く繰り返しても、死腔量の割合が大きいために効率が悪いことは理解していただけたものと思います。

さて、1回の呼吸あたり15%が無駄になっていると書きましたが、これはあくまでも安静時の呼吸量、500ccに対してです。意識的に深く呼吸することによって一回あたりさらに多くの空気を吸い込めばこの割合は下がることになります。つまり、わざわざ2回続けて吸わなくても、1回の吸気量を増やせばそれでいいということです。この意味において、500ccの吸気を2回続けるのと、1,000ccを一度に吸うのとでは死腔量に違いはありません。では、なぜ「2回ずつに分けて」呼吸するのでしょうか?

これは、運動と呼吸のリズムが関係しています。運動時の呼吸の基本は、体の動きに合わせることです。具体的には、手足の動きに呼吸をシンクロ(同調)させるということです。しかし、ランニングやマラソンでは手足の振り(ピッチ)が速いために、呼吸が追いつかなくなります。呼吸が追いつかなくなると、一回あたりの吸気量を減らして対応しなければいけません。

登山のリズムはゆったり大きく

このように、「呼吸を早めると呼吸が浅く」なり、要するに「1回の呼吸量が少なくなる」ということでもあります。これでは、先に示した「一度により多くの空気を吸い込めば死腔量の割合は下がる」のと、逆になってしまいます。ですから、2回続けて吸うことで、擬似的に1回の呼吸量を増やすのと同じ効果をあげているのです。

では、登山でもこの呼吸法は必要でしょうか?

私は必ずしもそうとは思いません。なぜなら、登山ではランニングほどには速い動き(ピッチ)を要求されないからです。つまり、登山においてはゆっくり歩くことで、歩行のリズムに呼吸のリズムを合わせることが出来ます。ゆっくり呼吸が出来れば、1回ずつの呼吸量を増やすことで何の問題もないのです。

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なぜ鼻から吸って、口から吐くのか?


鼻の使い方
(image from 写真素材 足成)

では、同様にランニングの常識とされている鼻から吸って口から吐くことの意味はなんでしょうか?

これには、二つの理由が考えられます。ひとつは、常に口を開けて「ハァハァ」と呼吸すると、口の中の水分が奪われて喉が乾くということです。特に富士山のような高所の空気は乾いていますから、この方法は理に適っているといえます。

さらに鼻腔は吸い込んだ空気を加湿および、加温する役割も担っています。口から乾燥した空気を吸い込むと、喉を痛めることもあります。高山病でもないのに空咳が出たり、喉がヒリヒリするのはそういう理由によります。また、低温で乾燥した環境では、気管にある線毛(せんもう)の動きが弱まることが分かっています。

線毛とは、粘膜の表面を覆う無数の細かい毛のようなもので、粘膜から出る粘液に絡めとったウィルスや細菌などの異物を流し去る(体外へ排出する)役割があります。ですから、富士山のような高所の乾燥・寒冷な環境ではその防御・免疫機能が充分に働かなくなって、風邪を引いたり気管支炎などの炎症を起こしやすくなります。それを防ぐためにも、鼻から息を吸い込むことは我々が想像する以上に登山中の体調を守るために大事なことなのです。登山中に風邪をひくと大変苦しい思いを味わうことになりますから、富士山に登り始める前に思い出してください。

ちょっと主題からは外れますが、一般に言われている「乾燥しているとウィルスが活発になる」は間違いだそうです。

「呼」と「吸」は別々に

鼻から吸って口から吐くもうひとつの理由は、空気の入口と出口を分けることに意味があります。仮に、鼻だけで呼吸することを考えてみてください。鼻腔内は、空気を吸い込んだときは新鮮な空気で満たされますが、そのまま鼻から息を吐き出すと、酸素を消費したあとの二酸化炭素を多く含む呼気(汚れた空気)が残ります。次にまた鼻から空気を吸い込むと、鼻腔内に残った汚れた空気を肺に戻すことになるのです。

しかし、鼻から吸って口で息を吐き出せば、鼻腔内は常に新鮮な空気に満たされたままでいられます。次に鼻から空気を吸い込むときも、新鮮な空気だけを送り込むことが出来るわけです。

もちろん、鼻腔と口腔を分ける咽頭(いんとう)までに占める空気の量は決して多くはありませんが、1分間に数十回の呼吸を何時間も続けていれば、そのわずかな差が次第に大きな違いになります。長い登山の間に、この差が高山病に掛かるか掛からないかを左右するかも知れないですから、一回一回は小さな差と雖も、決して侮れませんね。

次の項目ではさらに、メカニズムの面から呼吸法について考えてみましょう。

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呼吸のメカニズム

息を吐かなければ吸うことは出来ない

改まって『呼吸法』などというと難しくて面倒くさい手順が必要なことのように思えますが、実際にはどのようにするのが良いのでしょうか?

答えは、力を抜いて大きく息を吐き出すだけです。

え?呼吸法って、息の吸い方じゃないのかって?

いいえ、肺の出入り口がひとつで中で閉じている以上、まず肺の中の空気を出さないことには空気は吸い込めません。『呼吸』という字が、「吐く(呼)」、「吸う」、という順番で並べられているように、吸ってから吐くのではなく、吐いてから吸うのです。

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呼吸はどのように行われるか

気圧差で空気を出し入れする

呼吸のメカニズムでは、空気を肺に吸い込むのに陰圧(負圧)を利用します。陰圧というのは圧力が外部より低くなっていることを表し、内外の気圧差で物が内部に流れ込みます。例えば、注射器にその原理が利用されています。

注射器は、押子(おしこ=プランジャ)を引くと注射筒(シリンジ)の中が陰圧になり、外と中の気圧差によって吸引力が働き、液体や気体を吸い込みます。これは、人間が息を吸うのと同じです。押子が呼吸筋である横隔膜や肋間筋で、押子を引く動作が呼吸筋の収縮によって肺を引き伸ばす(広げる)ことだと考えれば分かりやすいでしょう。

同様に、押子を押すと内圧が高まり、注射筒の内容物が押し出されます。これは人間で言えば、息を吐き出すことになります。しかし、注射器と違うのは、押子を押すような動きをする筋肉は存在しないことです。では、人間はどうやって息を吐き出しているのでしょうか?

息を吐き出すときに筋肉は使わない

実は、肺は筋肉によって収縮するのではなく、自らの弾性で収縮することによって肺の中の空気を加圧するのです。つまり、肺を引き伸ばしていた呼吸筋を弛緩させ、肺自らが収縮するのにまかせることで、中の空気が押し出されるわけです。そして、この肺の収縮をスムーズに行うためにも、呼吸筋が十分に弛緩することが必要です。つまり、より多く息を吐き出すためには、体の力をいかに抜くか(脱力)がポイントになるわけです。

吐いた分だけ吸い込める

図のように、注射器により多くのものを吸い取るには、まず内容物を出し切ることが肝心です。人間の肺呼吸も同じで、空気を吸い込むにはまず肺の中の空気を吐き出す必要があるのです(実際には、人間の肺は息を吐ききってもカラッポにはなりません。成人男性でおよそ、1~1.5Lの残気量が残ります)。

そして、肺の容積に対して内部に残った空気が少ないほど、多くの空気を吸い込めます。

呼吸とは、力を入れることと、力を抜くことの繰り返し

これで分かるのは、腹式呼吸で息を吸うときには横隔膜に力を入れて筋肉を収縮させますが、息を吐く時は肺を引っ張って拡げている横隔膜を緩めるために体の力を抜く必要があるということです。

おそらく、腹式呼吸をするのが難しいと言う人は、息を吸うときだけでなく息を吐くときまで力を入れて行おうとするために、却って筋肉の弛緩を妨げてしまっていることが原因ではないでしょうか。

このことを理解せずに、変に力んで、お腹を出したり引っ込めたりすることが腹式呼吸だと誤解すると、却って肺が柔軟に収縮するのを妨げてしまいます。息を吐くときは、リラックスして体の力を抜くことを意識して行いましょう。力を抜けば、自然に肺から空気が押し出されます。

Check Point!

予備呼気量とは

あなたは肺を使い切っていますか?

ここまで読んで疑問を感じた人も居るかも知れません。「息を吐けと言うけれど、別に言われなくても息を吸いっぱなしの人なんていないでしょう。普通の呼吸でも息を吐いてるし、何が違うの?」と。

実は、私たちが普段、無意識に行っている呼吸では、息を完全に吐ききっているわけではありません。先に書いた残気量とは別に、「予備呼気量」として1Lほどの空気が肺に残っているのです。つまり、普通に呼吸をするときの肺には2Lほどの空気が残り、安静時の1回換気量(呼吸量)0.5Lと合わせて、2Lと2.5Lの間で肺の中の空気を入れ替えることで呼吸を行っているのです。

ロングブレス

目いっぱい息を吐き出すというのは、この予備呼気量も吐き出しましょう、ということです。それによって、1L余分に空気を吸い込むことが出来ることになります。この予備呼気量は、肺活量の20~25%ほどもありますから、これを使うと使わないとでは大きな違いがあると言えます。

具体的にどのようにすれば息を吐き切れるでしょうか?それには、ロングブレス(長い息)が有効です。肺の奥の空気を出すために、少し時間を掛けてゆっくりと呼吸するのです。但し、完全に空になるまで吐き切る必要はありません。それだと時間が掛かり過ぎますし、吐き切るだけで疲れるので、8割ぐらいを吐き出す意識で行えば十分に効果があるでしょう。

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腹式呼吸と有圧呼吸法

富士山登山に腹式呼吸は絶対に必要か?

多くのガイドブックやサイトで、「高山病対策のために『腹式呼吸(ふくしきこきゅう)』をすること」と書かれています。私も試しましたが、安静時に意識して腹式呼吸をすることは出来ても、登山中にもやれているかどうかは良く分かりません。身体を動かしていると、そんなことに気を取られている暇はないんですよね。実際に、行動中にずっと腹式呼吸をやれているかを確認しながら登るのは難しいですし、その必要も無いと思うのです。

行動中の呼吸法

今では、行動中に腹式呼吸を特別意識していません。富士山には何度も登っていますが、それでも高山病になったことは一度もありません。では、そんな私が実践しているもっと簡単な呼吸法を紹介しましょう。

私が山に登るときは、歩くテンポを意識します。これは、速いか遅いかではなく、足を踏み出すリズムを常に一定に刻むことを心がけています。そして、呼吸のリズムもその歩くテンポに合わせて行っていることが多いです。私は、「登山はスピード競争」だとは思わないので、比較的ゆっくりと登ります。すると、自然に呼吸の間隔もゆっくりとなります。先に説明したように、『速く浅く』呼吸するのと、『ゆっくり深く』呼吸するのでは、呼吸により取り込む酸素の量が同じであっても肺から血液に取り込む酸素の量には大きな違いがあります。

激しい運動を行うと酸素が不足し、それを補おうと呼吸が速く浅くなるのは本能によるものですから、呼吸を遅く深くするには激しい運動を意識して避けることが最も効果的です。つまり、腹式呼吸どうこうよりも、まずはペースを落として歩くテンポを一定にすれば、(私の場合は)高山病になることもないということです。

ゆっくり大きく呼吸することで、心身ともにリラックスして呼吸筋もより楽に弛緩することができ、肺に入る新鮮な空気もより増えます。このとき、背中が丸まっていると肺まで縮こまってしまいますから、背筋を伸ばし、胸を張るようにして上体を起こすことを意識して下さい。

休憩中は深呼吸

行動中と違い、休憩中は呼吸だけに集中することが出来ます。腕を上にあげて伸びをしながら、ゆっくり、大きく深呼吸しましょう。トレーニングのときでも、適度に休憩を取り、深呼吸を行うことで身体に酸素を取り入れると疲れにくくなります。

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腹式呼吸のやり方

腹式呼吸はとても簡単

では、休憩などのときに腹式呼吸が出来るように、どうやれば腹式呼吸が出来るのか説明しましょう。やり方はとても簡単です。

最初は椅子に座ってやった方が分かりやすいと思うので、適当な椅子に背筋を伸ばして座ってください。背もたれには寄り掛からない方がいいでしょう。左右どちらでも、片方の手のひらをお腹に当てます。おヘソの上ぐらいがいいでしょう。このまま、鼻から「スー」と息を吸い込みます。特にお腹に力を入れる必要はありません。このとき意識するのは、決して肩を動かさないこと、これだけです。

どうでしょうか、お腹が少し膨れるのが、お腹に当てた手で感じられますか?

では、そのまま体の力を抜いてください。力を使わなくても自然に息が吐き出されるはずです。これが腹式呼吸です。

これだけかって?

はい、たったこれだけで腹式呼吸が出来ます。腹式呼吸が難しいと思っている方は、この方法をぜひ試して下さい。ポイントは、肩を動かさないことだけに集中すること。面白いことに、肩を上げ下げして呼吸をすると、息を吸ったときにお腹がへこみ、吐いたときにお腹が出るという腹式呼吸の逆になります。これが、『胸式呼吸(きょうしきこきゅう)』です。肩を動かすのは胸郭を広げようとするときの自然な動作ですが、肩を動かさないと胸郭が広げられないために自然と腹式呼吸になるのです。

もっと簡単なやり方

これでも出来ないという人はおそらく居ないと思いますが、それでも実感出来ない人は、床に仰向けに寝転がって普通に呼吸してみて下さい。お腹に手を当てれば腹式呼吸が出来ていると分かるはずです。これは多分、寝転がっていると自然と肩が動かせない状態になるからだと思います。試しに、寝転がった状態で強引に肩を上下させると、やはり腹式呼吸ではなく胸式呼吸になります。

さらに、こんな実験もしてみると面白いです。先ほどと同じように肩を上げないようにして、息を吸ったときにお腹に力を入れて凹ませてみて下さい。どうですか?ほとんど息が吸えないですよね。肩も上げず、横隔膜も下げないと、息が吸えなくなってしまうのです。このように、人間はこのふたつの動作のどちらかをすることで、肺を引き伸ばし、広げることで呼吸しているのだと実感出来るでしょう。

歩いているときは歩くことに集中しよう

しかし、こんな簡単な腹式呼吸ですが、何か他の事をやっていると意識がそっちに向かって、『肩を動かさない』という約束事を忘れてしまいます。逆に、肩ばかり意識すると、安全に歩くことに意識が向けにくくなります。ですので、登山の行動中は腹式呼吸を特に意識しなくてもOKです。

しかし、トレーニング後、休憩中、山小屋などに意識して腹式呼吸を行うのはもちろん、高山病になったときに慌てないように、『肩を動かさない』ことと、『力を抜けば自然に息が吐き出される』ということだけは覚えておいて下さい。

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有圧呼吸法とは

気圧の恩恵

我々が呼吸するにあたって、酸素量と同様に重要な要素に『気圧』があります。

まず、気圧が下がることで呼吸にどのような影響があるのか、直接登山に言及されているわけではないですが、立花隆氏の著書『宇宙からの帰還』(中公文庫)で参考になる一文を見つけたので引用して説明しましょう。

引用

『宇宙からの帰還』より

気圧は地球の環境条件の中で気がつかれにくいが不可欠の条件の一つである。一定限度の気圧が不足していると、人間は100パーセントの酸素の中にいても呼吸できない。呼吸と言うのは、肺の中にある肺胞の膜を酸素が通過して血液の中に溶け込んでいく現象である。酸素に圧力がかかっていないと、酸素は肺胞膜を通過できない。
高度1万メートルくらいまでの対流圏の中では、大気の組成はほぼ一定である。大気の20パーセントは酸素である。ただし、高くなるに従って、空気の密度は減少する。その分、酸素の絶対量は低下する。しかし、高所にいって人間が酸素不足の現象を起こすのはそのためではない。それはもっぱら、気圧低下によって、体内に吸収される酸素が減るからである。

つまり、高所においては大気の密度低下により酸素の絶対量が減少しますが、それ以上に酸素を血液に取り込む上で気圧の低下自体が問題となるということです。そして、その気圧低下を補うとされているのが『有圧呼吸法』です。

酸素を吸い込むことと体内に取り込むことは、イコールではない

少しややこしいのですが、酸素を肺に吸い込んでもそれだけで『呼吸』は成立しません。肺に取り入れた酸素を、さらに血液中に送り込まなければいけないのです。

酸素は、肺の中にある『肺胞(はいほう)』という器官を通して血液に取り込まれます。このときに酸素に圧力を掛けて血液に押し込むのが気圧であり、気圧が酸素を体内に取り込む効率をも左右しているのです。

腹式呼吸などの呼吸法は、単に呼吸の換気量を増やす方法であり、有圧呼吸法は、肺に吸い込んだ酸素を血液に効率的に取り込む方法だと理解してください。

引用

『マウナケア山頂すばる望遠鏡訪問者安全心得』より

有圧呼吸法のやり方は、ハワイのマウナケア山の山頂に設置された『すばる望遠鏡』がある、日本の『国立天文台ハワイ観測所』のサイトで紹介されています。

山頂では、気分が悪いときには早い呼吸は避け、有圧呼吸法を行ってください。有圧呼吸法とは大きく息を吸い込み、2秒ほど呼吸を止めるとともに、胸に圧力をかけるように力を入れた後、ゆっくり口から吸い込んだ空気を出す。これを5ー6回繰り返すと、血中の酸素濃度が上がり、楽になります。

この有圧呼吸法を、インターバル速歩などの休憩時に行ってみてください。事前に試しておかないと、いざというときにやり方を忘れていたのでは、折角の知識も役に立ちません。

Check Point!

すばる望遠鏡

『すばる望遠鏡』は、1999年に観測を開始した直径8.2mの光学赤外線望遠鏡で、一枚の反射鏡としては世界最大級の反射望遠鏡です。すばる望遠鏡を擁する国立天文台ハワイ観測所が立地するハワイ島のマウナケア山は標高4,205mで、富士山(3,776m)よりも高い山です。

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酸素は鉄が運ぶ

血液の赤は鉄の色


鉄が欠かせない
(image from 写真素材 足成)

呼吸法と共に忘れてならないものがあります。酸素は、血液中の赤血球に含まれる『ヘモグロビン』に結合して、動脈血管により体全体へと送り届けられます。このヘモグロビンを作るのに鉄分が欠かせません。つまり、『鉄』は我々が呼吸し生きていくうえで欠かせない必須元素のひとつなのです。

ここで問題になるのが、女性に多い『鉄欠乏性貧血』です。鉄欠乏性貧血とは、体内で鉄分が不足するとヘモグロビンが十分に生産できなくなり、ヘモグロビンが不足することにより血液中の酸素濃度が下がることで起こる貧血の一種です。

ヘモグロビンが不足し出すと、酸素を行き渡らせるために血流量を増やしたり、呼吸量を増やしたりすることになります。これが動悸や息切れの原因となり、脳の酸素が少なくなれば脳への血流を増やして補おうと血管が拡張するため、頭痛となります。それでも間に合わなければ体全体が酸素不足に陥り、倦怠感や疲労感が出て、貧血症状を呈することになるのです。

日本人は全般的に鉄分が不足していると言われています。特に女性に限った話ではありませんが、偏食(ファストフードに偏った食事や好き嫌いなど)や食事制限ダイエットなどで鉄分が不足している人はさらに注意が必要です。

鉄分を多く含む食材


鉄分が不足すると、爪が上向きに反り返る『スプーン爪』、血液の赤色色素であるヘモグロビンの減少によって『顔色が常に悪い』といった症状が表れます。このような人は特に、鉄分を効率よく体内に摂取できる食材、ホウレンソウや赤身の肉、レバー、シジミなどの貝類、ヒジキなどの海草、きくらげ、干し海老、大豆などを十分に多く食べる必要があります。(動物性食品に含まれるヘム鉄の方が、植物性食品に含まれる非ヘム鉄よりも5倍ほど吸収効率が高いそうです)

それでも鉄が不足するならサプリメントなどで補うのもいいですが、逆に鉄を摂り過ぎると鉄過剰症(鉄中毒)などの弊害(有害ということ)もあるので、医師の指導を受けるなど、用法、容量を守って摂取するよう注意してください。

鉄の吸収効率を高めるには

また、鉄分の身体への吸収を高めるためにビタミンCや動物性タンパク質が重要な働きをすると共に、赤血球を作り出すのに葉酸(ビタミンB9)やビタミンB12が必要です。

葉酸は、レバー、緑黄色野菜、果物に多く含まれ、ビタミンB12は、海苔や貝類などに多く含まれていますが、普通の食生活で不足することはあまりないそうなので、バランスの良い食事が出来ていれば必要以上に気にすることはないでしょう。但し、これらの水溶性ビタミンは、過剰に摂取した分は尿によって排出され、体内に貯蔵されないので、「昨日多く摂ったから今日はいいや」というわけにはいきません。毎日、継続的に摂取するように心がけましょう。

体づくりは、バランスの良い食事から

特定の栄養素を得ようと、同じ食品ばかり食べることも良くありません。例えば、レバー(肝臓)は解毒の役割があるため、体内の毒素が集まる部位です。血抜きをされているとはいえ、当然家畜のレバーにも有害物質が残留している可能性があります。もちろん、少量であれば自らの肝臓で解毒出来ますが、一度にあまり量を多く取ると処理能力を超えてしまう可能性も無いとは言えません。

他にも、ヒジキには砒素(ひそ)が多く含まれるとか、大豆に含まれるイソフラボンという成分に女性ホルモンのような作用があることから、多く摂取し過ぎると女性化する可能性があると言う人もいます。

もちろん、これらの食品も大量に食べるのでなければ健康に害はないと思いますし、過剰に恐れたり避けたりすることはむしろ必要な栄養素の摂取を妨げるなど、また別の問題があります。どのような食品にも多かれ少なかれ副次的な作用があるのは、薬と一緒です。ようは、単一の食品、栄養に偏るのではなく、バランスの取れた食事を摂ることが大切だということです。

過剰なダイエットは不健康

現に食事制限ダイエットを行っている方もこちらをご覧になっているでしょうが、このように運動は健康に支えられ、健康はバランスの取れた食事による栄養補給によってもたらされていることを忘れないでください。

「健康ではない」やり方によるダイエットに意味は無いと私は思うのです。また、「健康ではない人」に富士登山はお薦めしません。

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